女がそれに気付いたのは、ちょうど一年前の春、娘を塾に迎えに行ったのが最初だった。
娘の塾のまん前に大きなショッピングセンターがあり、塾の送迎の親はそこの駐車場に車を止める。
まだ少し時間があったので、女は何気なく地下の食料品売り場に行ってみた。
そして女は知る。
スーパーのお惣菜はこの時間帯には半額になるんだと言う事を。
その日はもう食事を済ませていたにも関わらず、女はついつい惣菜を買い込んだ。
家に帰った女は戦利品を家族に自慢し、早速皆で食した。
最近の出来合い食品は本当に美味しい。
それが半額なら尚更美味しい。
夜遅くからの揚げ物三昧は太るなんてヤボはこの際関係ない。
何せ半額なんだから。
それから毎週、娘の塾の日の食卓は、スーパーの半額お惣菜のみで飾られる事となった。
通ううちに女は更に色々気付く。
まず、あまり早い時間だと、まだ30%オフシールしか貼られていない。
暫くすると店員が一斉に30%オフの上から半額シールを貼っていくのだ。
狙い目はこの時だが、迷いは禁物だ。
半額シールが貼られると共に、今までどこに居たのか、大勢の半額ハンターが音もなく現れ、根こそぎ持って行ってしまうのだ。
気弱な態度はここでは命取りだ。
一瞬の躊躇が今夜の食卓を脅かす。
試行錯誤の末、女はひとつの戦法をあみ出した。
まず、30%オフの時点で、ある程度の数をカゴに確保する。
いかにも「あら~30%オフになってるわ~得しちゃった~」みたいな顔ですっとぼけるのがコツだ。
そして他の売り場をウロウロして時間を潰し、半額シールが貼られる寸前に戻り、素早くカゴの中の商品を店員の手元に差出し、半額シールを貼って貰うのだ。
ここでもいかにも「あら?さっき30%オフだった同じ商品が半額?知らなかったわ~これも貼って貰えるのかしら?」といった、白々しさが大事である。
そしてそこで初めて、カゴの中を吟味し、本当にいる物だけをカゴに残し、あとは売り場に返してレジへ向かう。
かくして女は欲しい物を全て半額でゲットする。
半額になってから現れる数多のハンターを尻目に女は勝ち誇る。
彼らはもはや女の敵ではない。
だが最近、女は新たな敵の存在を知った。
それは淡々と仕事としてシールを貼ってるはずの店員だ。
女は時間が来れば当然シールは貼られるものと思っていたが、どうやらそれは店員の采配に任されているようなのだ。
店員によっては、最後まで半額シールを貼らない人もいる。
貼るのか、貼らないのか…
微妙な駆け引きの末、タイムオーバーでスゴスゴとレジへ向かう途中、女は確かに店員が勝利の笑みを浮かべているのを見た。
娘の塾の日は毎週水曜日。
そう、今日は水曜日だ。
女と店員の戦いのゴングが、今日もスーパーの地下に鳴り響く。
※この物語はフィクションです。
登場する“娘のいる女”あたしじゃないからねっ!
あくまでも架空の人物だからねっ!
バカだね~
ボクは恥ずかしいにゃよ…