誤食の危険をおかしてまで、これで遊ばせてやってるのは、ひとえに運動不足解消のためなのに、ふと気付くと、ライアンはソファーの上で構えてるだけで、投げて拾って…と這いずり回ってるのはいつも私の方だ。
ライアンは目をキラキラさせて、ソファーで待ってるだけ。
私が投げた「タマちゃん」をバシッと手で打ち、また「投げて投げて!」と構えるだけ。
たまに私の投げた位置がライアンの予想範囲じゃなかったら、ケッと言う顔をして追いかけもしない。
自分の思惑通りのタマをバシバシ打ち返して、ちょっとでも私の投げ方が悪いと睨みつける…。
段々わたしは千本ノックを受けてる気分になってくる。
そして10球に1球くらいの割合で、ライアンにとって最高の位置にタマちゃんが来ると、おもむろにパクッと咥えて、「どや顔」をする。
この「どや顔」が可愛くて、ついついヘトヘトになりながら何回も投げてやってるようなものだ。
ライアンは私がヘイコラ言う事を聞くのを楽しんでいる節がある。
わざと遠くへタマちゃんを飛ばして「取って来いよ」とニヤリとする。
Sだ。
この子はSなんだ。
額のマークはMなのに、心の中はSなんだ。
先日の事。
いつものように「タマちゃん」で遊んでて、いつものように咥えて「どや!」ってした後、なんと「うぅー」と唸りだした!
驚いた私が「どうしたの?離しなさい」と優しくタマちゃんに手を出すと、事もあろうに、「シャー!」と言ったのだ。
この私に、である。
まだ目も開いてないうちから手塩にかけて育てた、この私に!
誰がアンタの排泄の世話をしたと思ってるの?
3時間おきにミルクを飲ませたのは誰?
お母ちゃんの胸で指チュッチュするのは誰なの?
私はショックのあまり「母ちゃんに向ってシャーとは何だ!このバカ猫がぁ~~!」とタマちゃんをむんずと掴んで奪い取り、速攻でゴミ箱行きにしてやった。
ライアンはすぐに落ち着きを取り戻し、暫くキョロキョロとタマちゃんを探していたが、何事もなかったような顔をして私の元へやって来て、「トン」をする。
まだショックから覚めやらぬ私は思い切りいじけて、「お母ちゃんにシャーって言ったよね?そんな子とは遊びません!」と膝に顔を埋める。
するとライアン、「クゥゥ~」と今まで聞いた事のない声で鳴いてダンボールに潜って行った。
私もしつこいので、それからライアンが側に来る度に、同じセリフでいじけてみせる。
やっぱりライアンはその都度、「クゥゥ~」とダンボールへ…。
反省してる?
ヤバイ事したってわかってる?
Sだからこそ、打たれ弱いのだ。
Sだから、攻撃には強いが防御はからきし弱いのだ。
ごめんねライアン!
もう母ちゃん怒ってないよ。
今ではライアンもすっかり忘れたみたいで、またいばっているが、タマちゃんはもうない。
私はあの「どや顔」が見たくて、現在、「2代目タマちゃん」を物色中である。

どや!