同じく、「猫がトイレ前後に走り回るのは野生時代の名残。トイレは野生の生き物にとって最も危険な無防備状態なので、かなりの緊張感を伴う行為であり、それが今の飼い猫にも本能として刷り込まれ、緊張感の表れとして走り回る」と言うような事もよく目にする。
へぇーそうなんだ。
あれ?でもうちのライアンは……
昼寝をしていたライアンがノソノソと餌場にやって来て、ふと、途中にあるトイレをチラッと見、「あ、ついでにトイレでも行くか」みたいにヒョイと入る。
そこにはどう見ても、緊張感など見られない。
いつものように、上半身をトイレの入り口からニョッキリ出して、恍惚の表情で用を足し、あくまでもゆっくりとした動きで、砂をかく。
ザクザクザク…
この砂かきの段階でいつも彼はちょっとしたミスを犯す。
トイレの向こう側からドンドン砂をかき集め、手前のオシッコ現場を山積みにしてしまうのだ。
そしてトイレの向こう半分は底が見えるくらいになったところで、「よしよし」とまたトイレに入る。
当然入り口付近は砂の山なので、ライアンの重みでザザァーと砂は外にあふれ出す。
そんな事は物ともせず、彼はまた入り口からかたつむりよろしく、上半身を出し、再び恍惚体勢に入る。
しばらくすると、「ゴトッ、ゴトッ」と音が聞こえる。
ウンチが手前の山から奥の平地へ転がり落ちている音だ。
そして「フゥー」と言った感じでまたザザァーと砂と共に外に出て、「さぁて砂かけ…」とトイレを振り向いた時に彼は自分の小さな過ちに気付く。
埋めたいウンチはゴロゴロとトイレの向こうの方に転がってしまって、しかもそこに砂はない。
「うーん、困ったなぁ」ととりあえずまたトイレに入り、適当に砂をザクザクかき始める。
しかし、やればやるほど、ウンチが埋まるどころか、トイレ内はシッチャカメッチャカになる。
その内、最初に埋めたオシッコのブルーの部分が掘り起こされ撒き散らかされる。
困ったライアンはトイレの壁や天井をワケも無くカリカリしだす。
あたかもそこから新しい砂が舞い降りてくるかのように、願えば叶う…と言わんばかりに。
だがもう小さな歯車の狂いはどうにもならない。
しかし、驚くべき事に、そこでいきなり彼は全てを諦めるのだ。
「ま、今日のところはこれぐらいにしといたろ」と、涼しい顔でトイレを後にする。
彼が去った後のトイレを覗いて見ると、もう汚いの何のって…
砂はあちこちに飛び散り、中はウンチとブルーの砂がグチャグチャにブレンドされているのだ。
これのどこが綺麗好き?
自らオシッコで汚れたトイレで続けざまにウンチしてますけど??
しかもかき回してますけど?
そしてその姿ったら、無防備この上ないんですけど?
「猫の本能」はどうした?
ライアンはもうずっと前から、1日1回のウンチの時は必ずついでにオシッコもするのだ。
最近では掃除が大変なので、このダブルの時だけ、私が横で待機して、スコップで埋めてやる事にしている。
いきなり掃除をするのではなく、一旦埋めてやるのがミソだ。
ライアンは横で私の仕事っぷりをジッと見て、「ちゃんと埋めた?」とトイレに顔を突っ込んで確認してから満足そうに去って行く。
勿論ノソノソと。
トイレ前後に走り回るなんて1回もない。
私はライアンのシッポについた白い砂粉を綺麗に払ってやってから、手を洗いに行く。
この子は「野生の本能」なんて持ち合わせていないのだろう。
思えばお腹を出して仰向けで寝るなんて事も、野生ならありえない事で、ライアンに限らず、昨今の人間と暮らす動物は危機感がどんどん薄れているのだろう。
それはそれでいいと思う。
一緒に暮らしている家族なのだから、動物だけが緊張感を持つ必要なんてないのだ。
その代わり、人間は何が何でもこの小さな生き物を守らなければならないだろう。
動物の本能をも忘れさせてしまった責任は人間にあるのだから。
そしてそれは、実はとても簡単な事なのだ。
「人間の本能」にはきっと「家族を愛する」と言う項目があるに違いないのだから。

何言ってんねん?オレめっちゃ緊張してんでぇ~

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